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ケチる代償、チャンスを掴む投資

物価高騰の波が続き、その終息が見えない状況の中、インボイス制度など新たな政策が次々と導入され、多くの企業がその対応に追われている。この状況は、間接業務を増加させているうえに、人手不足も重なって、本来の業務に十分に集中することを難しくしている。品質の維持が難しくなり、利益の確保も一段と厳しくなっている企業は多いのではないだろうか?
 このような状況下で、耐用年数を超えた古い設備を使用している企業は少なくはない。入れ替えを考えても、物価の上昇によって当初の予算を超えてしまうと、判断が難しくなる。しかし、老朽化は避けて通れない問題であり、状況が不透明であっても、設備の入れ替えは必要となる。そのときに、機能を落としたり、中古品にするなどして、妥協して設備を導入することも多いのではないだろうか?

■「妥協の設備投資」と「適正な設備投資」が招く影響とは?

 例えば、身近な設備投資として、パソコンの導入・入れ替えについて考えてみよう。
 パソコンの導入や入れ替えに際して、収益が思うように上がらない場合、「安価なパソコンを選ぶ」「古いパソコンを続けて使用する」場合がある。安価なパソコンは、時間の経過とともに、パソコンの動作が遅くなる傾向がある。理由の一つとしては、安価なパソコンは外見こそ新しくても、内部の技術が古い場合が多い。それに新しいソフトを重ねて使うためである。また、古いパソコンは使用を続けるとデータが蓄積され、動作が鈍くなる場合が多い。つまり、パソコンを選ぶ際に価格だけでなく、性能も考慮することが重要になる。
 では、パソコンの性能が、『働く時間』と『時給』にどのように影響するか考えてみよう。
 適正なパソコン(性能の良いパソコン)の起動時間を15秒、安価なパソコン(性能が劣るパソコン)の起動時間を2分30秒とする。ここでは、単純にパソコンの電源を押して、パソコンにログインできる状態になるまでを示す。パソコンの速度に関係なく、仕事の内容・量は同じとする。すると、起動時間の違いだけで、1年間で、9時間の差が出てくる。(下記参照)

時給2,000円とすると、1年間で18,000円多く従業員に支払うことになる(超過時間が残業になった場合)。
パソコンの耐用年数を5年間とすると
18,000円×5年間=90,000円
となる。90,000円分の人件費が多く必要になるということになる。また、これは、パソコンの起動だけの話なので、アプリの立ち上げ、表計算ソフトの計算時間、インターネットの通信速度等、パソコンの性能に関係してくる処理が多いので、実際は、もっと多くの時間の差が出てくると考えられる。特に、適正なパソコンを使用して、効果を発揮するのは、会計やデータ入力などの単純作業で、かつ、パソコンでの作業量が多いときである。
 また、購入金額を「適正なパソコンは20万円」「安価なパソコンは10万円」と仮定すると、差額の10万円は、購入時に倹約しても、結局は、人件費となって、継続的に支払う必要が出てくる。安価なパソコンは、時間の経過とともに遅くなる傾向にあるので、利用者のストレス、残業による疲れを蓄積させる可能性もある。働き方改革で、時間短縮など無理難題を従業員に強いると、不満が出てくる可能性もある。昨今では「パソコンが遅い」という理由で退職する者もいる。そうなると、パソコンへの投資をケチったために、代償として「大切な人財を失う」という影響が出るかもしれない。

■適正な投資で生まれた時間を有効活用することで、ビジネスチャンスを掴む!

 逆に、「適正なパソコン」を導入することで、9時間以上の余裕が生まれると考えれば、どうなるだろう。この生まれた余裕の時間を活用して、将来の収益を創出する活動に集中することができるのではないだろうか。例えば、「新製品開発や製品の品質向上に取り組む」「顧客とのコミュニケーションを強化し、顧客満足度を向上させる」「生産プロセスを見直し、最適化する」「新規事業の立ち上げや拡大を行う」などである。その結果として、パソコン購入金額の20万円以上の収益を得るかもしれない。
 つまり、余裕時間を生み出し、最大限に活用することで、ビジネスチャンスが広がり、多くの成果を得ることができる。余裕のある経営は、従業員の満足度向上や会社全体の生産性向上に繋がりやすく、持続的な成長の実現が可能になる。

■適正な設備投資のためには、計画性が必要!

「適切な設備投資が必要なことは理解できるけど、実際の状況は簡単ではない。」「収益が十分でない場合、妥協は避けられない」「入れ替えを考えられない状況のときもある」と考えている方は、まずは設備計画を立てることから始めてみてはどうだろうか。設備計画をたてることで、次の3つのメリットがある。
① リスクが軽減する:設備の老朽化や故障に伴うリスクが軽減する。定期的なメンテナンスや最適なタイミングでの設備更新により、予期せぬ支出が減少する。
② 希望する価格、希望する機能・性能での購入が可能である: 必要な資金が事前に把握できるので、余裕をもって資金を貯めることができる。余裕をもって発注できるので、希望通りの設備を希望価格で購入することができる。
③ 補助金の活用が可能である: 補助金は申請して直ぐに貰えるものではない。申請から実際に手に入るまでには時間がかかるため、計画性がない場合は活用が難しい場合が多い。


 最近は、設備の更新や入れ替えに関する資金調達の相談が多い。計画的に資金を調達し(資金を貯める)、余裕を持った設備導入を行う企業は、好循環に入っている傾向がある。一方で無計画な企業は、悪循環に陥ることが多いように感じる。そのため、設備計画は成功の重要な要素といえる。また、古くなった設備がもたらす品質の低下やトラブルは企業の存続に危機をもたらすこともある。この意味からも、新たな設備の導入は次なる成長の礎となり得る。困難な場合もあるだろうが、持続的な発展を考える上で、最適な設備投資には惜しみなく取り組むことが重要だといえる。


兵庫県中小企業団体中央会「月間中央会第790号 2023年11月号」に掲載していただいたものを転載いたしました。
掲載記事は、こちらをご覧ください。

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