AIが話題になり始めたのは、2023年、数年前のこと。当時のAIは、答えも曖昧で、頼りにするどころか「話にならない」と感じた方も多かったでしょう。しかし、2年ほどで、AIは驚くほどの進化を遂げました。質問の意図を理解し、専門的な内容にも的確に答え、まるで「優秀な相棒」のように働くことも。
ところが、AIを実際に使ってみると、思い通りの返答が返ってこない。それどころか、「事実とは異なる嘘の内容」が返ってくることもあります。「そんなはずはない」「AIは正確なんじゃないの?」と驚かれる人も少なくはありません。けれども、実際に触ってみた方なら心当たりがあることでしょう。言い換えると、「もっともらしいことを言うのに、後から調べると間違っている」という経験です。
一方で、AIを上手に使いこなし、資料作成や企画立案をスピーディに進めている経営者もいます。同じAIを使っているのに、結果はまるで違う。「嘘つきAI」と「頼れるAI」。この差を生み出しているのは、「AIが扱う情報の質と、使う側の姿勢」なのです。
1.嘘つきAIの正体 ― データの質が結果を左右する ―
AIは人間のように意図的に嘘をつくわけではありません。人のように考えて答えているわけではなく、「過去に学習した膨大な知識(データ)から、最も説得力がありそうな答えを再現する」仕組みなのです。そのため、時にもっともらしく見える間違いを、堂々と話すことになるのです。
その背景にあるのが、AIが学んでいる元データの質です。AIは膨大なインターネット上の文章や記事をもとに学習しています。ところが、ネットの世界には真実もあれば、古い情報や誤情報、偏った意見も無数に存在します。AIはそれらを区別しないでデータとして蓄積するため、「もっともらしいが間違った答え」を生み出してしまうことがあるのです。つまり、AIの「精度」や「信頼性」は、どんなデータを蓄積して、どのように活用しているのか、その「情報の質」で決まるのです。 そして、もう一つ重要なのは、AIにどんな情報を与えるかは私たち次第ということ。AIはデータベースの塊であり、使う側が正しい情報や自社の状況を与えなければ、現実に沿った答えを導き出すことはできません。
2.頼れるAIの正体 ― 思考を映す鏡として使う ―
なぜ、同じAIを使っていても、「嘘つきAI」と「頼れるAI」が生まれるのでしょうか。その違いは、「AIを使う側の姿勢」にあります。
AIは、具体的な条件を伝えれば伝えるほど、精度の高い答えを返します。たとえば、「売上を上げるには?」と聞くよりも、「予算30万円以内、シニア層向け、地方の小規模店舗で実行できる販促策を3つ」と尋ねる方が、具体的な答えが返ってきます。つまり、AIは質問する人の思考力を映す鏡です。AIに考えさせるのではなく、AIを通して自分の考えを整理し、仮説を磨く。そうすることで、AIは自分にはなかった視点を与え、思考の幅を広げる「相棒」になります。
かつてパソコンが登場したときも、「人の仕事がなくなる」と言われました。しかし、実際は、パソコンを使いこなした人のほうが成果を上げ、仕事のスピードも意思決定も格段に早くなりました。AIもまったく同じと言えるでしょう。最近では、AI搭載型のパソコンが登場し、資料作成、議事録要約、翻訳、画像生成などを自動で行えるようになりました。AIは、「クラウドの先の存在」ではなく、パソコンそのものに組み込まれ、経営者の作業空間に入り込み始めています。
3.次の時代 ― AIエージェントと「育てるAI」
現在のAIは、検索や分析、リサーチを通じて経営者を支える「情報参謀」のような存在ですが、次の段階として、「AIエージェント」が登場し始めています。AIエージェントとは、人間の指示を理解し、自分で情報を探し、判断し、実行まで行うAIのことです。例えば「新商品の販促企画を作って」と指示すると、市場データを調べ、アイデアを整理し、提案資料を作成し、社内共有まで自動で行う・・・そんな「デジタル社員」のような存在です。
パソコンが「計算機」から「経営ツール」に変わったように、AIも「知識の倉庫」から「考える助手」、または「動く相棒」へと変わっていきつつあります。しかし、ここで忘れてはならないのは、AIはあくまでデータベースの塊であり、自分で正しさを判断できないということ。間違った情報を与えれば、そのまま間違った行動を取ります。だからこそ、使い手には「AIを育てる視点」が求められます。

4.AIを育てる経営、AIに任せっぱなしにしない経営
AIは「使う」だけでなく、「育てる」必要があります。優秀な社員を育てるように、AIにも正しい情報と明確な目的を与えることで、企業の考え方や判断基準を学ばせることができます。現場の数字、顧客の声、実際の成功と失敗の事例など、「生きた情報」をAIに与える経営者ほど、AIを正しく活かすことができます。一方で、AIに任せきりにすれば、誤情報や思考停止のリスクが高まります。
AIは「誰でも使える」道具ですが、使い方によって成果は大きく変わります。AIを信じて任せるのではなく、AIと共に考える。それが、これからの経営者に求められる姿勢です。パソコンが「仕事のスピード」を変えたように、AIは「経営の思考」を変えようとしています。
嘘つきAIにも、頼れるAIにもなる。その違いを決めるのは、経営者自身です。AIを、あなたの「優秀な経営の相棒」として育てていきましょう。

兵庫県中小企業団体中央会「月間中央会第814号 2025年11月号」に掲載していただいたものを転載いたしました。
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